日下は、「〈Ship〉」に俳優として参加している。当時の公開シェアのレポート*1から引用する。
「現実に見ているものを、それに対する概念を外すことで、非現実にすることで、それに対して改めて向き合い直す。そしてそれで感じたこと、その結果、現実に対して、ものに対して思ったこと、それを、提示する場が、作品である、という結論に至りました。」
今回のワークショップでも、日下にとっての演劇は、変わらずにそうであり、同じように言われた。「概念を外」して、「非現実に」して、「現実に対して、ものに対して思ったこと、それを、提示する」。その方法をつかって、体験してみる。それが、このワークショップであった。
内容について。「〈Ship〉Ⅲ」では、「服」にフォーカスが当てられていた。このワークショップもそこに連なる。参加者は私服を持ち寄り、日下のお題に応じて、「コーディネート」する。されたことにたいして、いくつかの傾向や考察があげられるので、それについて書く。
以下のようなお題が出された。
「モスクワの最低気温の夜」
「赤道直下」
「身体のどっかの部位を攻めて来る虫がいる国」
「背中を見せてあいさつする文化」
いずれも、そこに属する人々を想像しながら、持ち寄られた「私服」を組み合わせて「コーディネート」がなされた。そもそも、わたしたちは日本に住んでいるが、その環境や文化と縁遠い(と一般に感じられる)要素で、お題はつくられている。それによって、対象選択の基準を個性や、感性から外せる。言ってしまえば、「他者の服を着る(着ている)」という演技性が織り込まれる。たとえば、自身を鏡に映すということや、よりよく見せるということへの抵抗は減らされる。
上記に付随して、お題によって生まれる傾向がある。なされた「コーディネート」について、その「コーディネート」によって「ここではないどこか」が「提示」されていることは了解されているため、たとえば「民族性」が持ち込まれていた(1つめのお題で言えば、「たしかにロシア人ぽい」とか)。文化や民族など、帰属先を示そうとする。それによって、「異国の」とか形容できる、独特な組み合わせや、言説が方向づけられていたといえる。
その点で4つめのお題は、とくに顕著だった。「服装」と、「あいさつ」という仕草の「儀礼性」が結び付けられている。ので、「服装」が「あいさつ」のしかたと直接に関係づけられる(傾向がある)。「服装」によって、「儀礼」の象徴性や意味性が、代理的に示されることが、方向づけられる。
お題によって、個性や感性の洗練によるアイデンティファイを避けつつ、過度に誇張された(エキゾチックともいえる)「コーディネート」が多様につくられた。そのよしあしをここで判断するつもりはないが、「避けるために、過度に誇張された」といえる可能性があったことも、指摘したい。そのうえで、思いもよらぬ服の使い方がアレンジされ、「コーディネート」にたいして豊かに言葉がうまれ、当然そこに発見があったことも言いたい。
記録チーム 飛田ニケ
【日下 七海 Nanami Kusaka】
1995年生まれ。大阪府出身。立命館大学文学部在学中。5歳よりバレエ、7歳より中国琵琶、中学生よりコンテンポラリーダンスを始める。そして大学入学後関西にて演劇を始める。現在、京都を拠点とするアーティストグループ安住の地に所属。ロームシアター京都×京都芸術センター創造支援プログラム『KIPPU』にも選出。外部では維新派に『透視図』から2017年の台湾公演まで出演。その他ラジオドラマや映画など活動は多岐にわたる。また中国琵琶にて第1回香港国際中国器楽コンクール海外琵琶部門銀賞、第12回大阪国際音楽コンクール民俗楽器部第2位など受賞。