鎌倉ソロレジデンス

藤井さんは他の参加者とは違い、6日間鎌倉でソロレジデンスをおこない、公開シェア当日の朝にウォーフに合流しました。ですので中間シェアはおこなっていません。ただ、5日目に私が鎌倉に足を運んでおり、中間シェアの代わりというほどではありませんが、彼女のソロレジデンスの様子が伺えました。

参照:番外編・藤井祐希

公開シェア

”昨年「わたしはずっと演劇をやりたかったけれど演劇が好きではない」ということに気が付いたため、現在は舞台に立つことは休止中。自分がやりたい表現とは何かを模索している。” と藤井さんのプロフィール(〈Ship〉facebook ページ参照)にあるように、彼女は演劇ではない表現を模索していました。

藤井さんの公開シェア

藤井さんの公開シェア

彼女の公開シェアは写真と言葉でした。ウォーフの共有ラウンジの机に、裏返した写真と短い言葉が印刷された紙が1セットになっていくつも並べられていました。鑑賞者は自由に写真を表にして見て行きます。この間、藤井さんに質問することも可能でした。

写真には鎌倉の風景と思われるものが、言葉にはなんらかの藤井さんの考えと思われるものが。

写真と言葉

写真と言葉

写真や言葉の中には私と過ごした1日も含まれていました。

例えば、言葉の1つに「ひとより動物が好きな理由は?」というものがありました。鎌倉を散歩していたとき話の流れで「人と動物とどちらの方が好きですか?」と私から聞いたのですが、彼女は「動物」と言い、それについて私たちはしばらく話していました。

このようにあの日の断片が見えたことで、この展示が「藤井さんの過ごした鎌倉」だと私にはすぐ腑に落ちました。(彼女の鎌倉生活に対する前情報がこの時点で何もなかった鑑賞者たちがこの展示をどう見たのかは少し気になる点)

鎌倉での藤井さん

鎌倉での藤井さん

全員の鑑賞が終わったのを見計らって「何を話せば良いかわからないという話をします」と彼女は話し始めました。

藤井さんは滞在初日に由比ヶ浜のあたりから七里ヶ浜のあたりまで歩きつつ、そのとき何を思ったかということを喋りながらカメラを回していたそうです。そして滞在先に戻り、その映像と音声を確認して驚いたと言います。歩いていたとき、「海が綺麗だ」「群馬(地元)には海がないな」「波の音を聞くと地元の遊園地の急流すべりを思い出すな」などと思いながら歩いていたそう。「そう思ったのは全部本当にそう思って本当にそう言って記録していたんですけれども、いざ聞き返して見ると、本当だったけど本当じゃないなということを思って。それは私のなかにある浅い言葉だなと思いました。」と彼女は言います。「私は普段から私のなかの深いところにある言葉を話したいと思っていて、本当のことしか話したくないということをすごく思っていて、でもそれが最近うまくいかないなと思っていて、だから映像を撮って聞いてみたときに私は今浅い言葉を喋っていたと思ってびっくりしたというか気付かなかったなあと思って。」

今回の展示の経緯について話す藤井さん

今回の展示の経緯について話す藤井さん

「鎌倉で思ったことや感じたことはたくさんあるし、鎌倉に行く前から考えていてノートに綴っておいたこととかもたくさんあって、それを公開シェアとして喋ることもできたし、そういうことをやろうかとも考えていたんですけど、それは今私がやりたいことではないし、今私がやれることでもないのかもしれないなと思ったので、今回こういう展示という形になりました」と今回の作品形態について話しました。

藤井さんは普段記録を全然しないそうで、人生で初めてこんなにたくさん写真を撮ったと言います。そして、撮った写真の下の言葉は、そのとき思ったことやその写真を見て思ったことだと説明しました。

「これを見て頂けたから、これで私の公開シェアはいいんだろうなと私が思うからオッケーです!」と言い、藤井さんの公開シェア、もとい「私の鎌倉ソロレジデンス、1週間滞在して感じたこと思ったこと展」は終了しました。

鑑賞風景

鑑賞風景

私がウォーフに滞在していた4人とソロレジデンスの藤井さんで最も顕著に違っていたなと思うのは公開シェアもしくは中間シェアの場所性です。ウォーフに滞在していた4人のうちキサラさんを除いた3人は明らかにウォーフ周辺の土地をなんらかの形で取り込んでおり、その一方で藤井さんは鎌倉という場所ありきでの展示でした。

牧さんの公開シェアはウォーフ付近の町並みを空間にインプットしていてカーテンから透けて見える外の町とリンクしたり、小林さんが初日から愛着を持っていた屋上で町並みを背景に公開シェアをおこなったことに対して、藤井さんの公開シェアでは窓から見える若葉町の町並みがあることで「藤井さんの過ごした鎌倉」をより一層際立ていて、同じ場所でありながら違う使われ方をしているのは面白かったです。

他にもやはりウォーフ滞在組が中間シェアもしくは公開シェアのなかでお互いの一緒に過ごした時間のことや一緒に取り組んだワークショップについて多少なりとも触れていたのと比較すると、藤井さんは鎌倉を通して見た自分の内面的なものが色濃く公開シェアに表れていました。

ソロレジデンスで見つめた彼女の内面的なものが、その背景となる鎌倉の町と一緒に「藤井さんの過ごした、見た、考えた鎌倉」として若葉町の中のあの空間に立ち上げられていて、魅力的な公開シェアでした。

記録チーム 馬淵悠美


【藤井 祐希 Yuki Fujii】

1993年生まれ。群馬県出身。2014年に上京し、座・高円寺が開設している演劇学校、劇場創造アカデミーで2年間演劇を学ぶ。修了後2年間はフリーの俳優として精力的に舞台に出演。昨年「わたしはずっと演劇をやりたかったけれど演劇が好きではない」ということに気が付いたため、現在は舞台に立つことは休止中。自分がやりたい表現とは何かを模索している。